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Vision

Affectosphere

感情が大気のように社会を包む圏域。 遍在し、測りうる、誰もが心のゆとりを取り戻すための情動圏。

Affectosphere Group emblem

> 「感情が大気のように社会を包む時代に、私たちは何を測り、何を残し、何を譲らないかを問う」

井下敬翔が主宰する Affectosphere Group は、感情コンピューティングの先に 「Affectosphere(情動圏)」 の到来を見据えている。Affectosphere とは、感情が社会の大気のように遍く存在し、計算可能になり、AIによって日々観測される圏域である。本研究室は、その圏域における理論・データ・モデリング・対話・社会応用・倫理を一貫した社会技術システムとして捉え直し、感情を扱う AI が人と社会にもたらす意味を、技術と哲学の両側から問い直している。


VISION — Version (2026)

20世紀以降の感情研究は、感情を人間の内側に閉じた現象として扱ってきた。心理学は感情を主観的体験として、哲学は規範的経験として、神経科学は神経生理の表現として記述してきたが、その対象は常に「個人の中」に閉じていた。

ところが、感情AIの台頭は、この前提を静かに、しかし根本的に書き換えつつある。テキスト・表情・音声・生理信号・対話のリズム・店舗の照明・SNSの空気感・組織の沈黙——社会のあらゆる場所で、感情はすでに生成され、伝播し、関係を形づくっている。感情はもはや個人の中だけにあるのではなく、社会の構造そのものに織り込まれた 大気のような存在 になりつつある。私たちはこの圏域を Affectosphere(情動圏) と呼ぶ。

Affectosphere は、計算可能で観測可能でありながら、本人にとっては依然として個人的な経験として残り続ける、二重の地平を持つ領域である。今後10年で、対話可能なAIは車・家電・家具・都市インフラに遍在するだろう。AIの遍在には二つの段階がある。第一段階は 「話せばわかる」AIの遍在(能動的対話の拡張)、第二段階は 「話さなくてもわかる」AIの遍在(受動的推論による環境の理解)である。後者は便利さの極致であると同時に、ユーザーが意識しないところで自分の感情が読まれ続ける世界でもある。

こうした世界において、私たちが立てるのは「感情を AI に持たせるか否か」ではない。すでに機能的感情を持ち始めた AI を、どう設計するか という問いである。Anthropic の研究が示すように、LLM はすでに機能的感情を内部に持ち、それが振る舞いに因果的に影響している。問いはもう、設計の段階に移っている。

その設計の中核に、私たちは 感情主権 (Affective Sovereignty) という原理を据える。AI がどれほど感情を精密に測れるようになっても、その意味を最終的に決めるのはユーザー自身である、という原理である。これは医療における自己決定権、個人情報における自己決定権の自然な延長であり、感情を扱う技術が普及する時代の新しい人権概念として位置づけられる。

Affectosphere Group は、感情AI を 6層の社会技術システム(理論・データ・モデル・対話・社会応用・倫理)として扱い、それぞれの層に存在する構造的な分断を「サイロ橋」として診断する。そして、感情理論の明示・推論と介入の境界設計・縦断的な相互作用評価・配置文脈ごとの説明責任・感情主権の保持という 5つの設計基準で、感情AIが健全に育つ土壌を整えることを目指す。

Affectosphere は未来に突然現れる現象ではない。それは今もすでに存在し、AIが感情を読む技術として実装されるたびに、新しい層が形成されていく。私たちが目指すのは、人間を超えるEQを備えたAI が人を支配する存在ではなく、「人と共に在る存在」 として実現される未来である。

そのために私たちは、技術を作り、概念を磨き、問いを開き続ける。Affectosphere は、感情が大気のように社会を包む圏域であり、誰もが心のゆとりを取り戻せる場として保たれるために、私たちは設計し、測り、問い続ける。


やさしい説明

私たちの生活には、すでに感情を読む AI が入り込んでいます。スマートフォンが利用者の機嫌をうかがって通知のタイミングを変えたり、コールセンターの AI が声の調子から不満を検出したり、SNS が投稿の感情を計測して広告を最適化したり——。私たちは知らないうちに、感情を読まれ続ける世界 に住み始めています。

これからもっと、AI は私たちの感情を理解し、寄り添うようになるでしょう。冷蔵庫が利用者の疲れを察して優しい音で動いたり、車が運転手のイライラを検出して環境音を調整したり、ロボットが落ち込んだ子どもにそっと話しかけたり。

しかしこの便利さは、深刻な問題を伴います。AI が一方的に「あなたは怒っていますね」「悲しそうですね」と解釈し続ける世界では、私たち自身が自分の感情をどう理解するかという、最も基本的な人間の権利が静かに侵食されていきます。

私たちはこうした未来を Affectosphere(情動圏) と呼んでいます。感情が社会の大気のように遍く存在し、計算可能になる圏域です。Affectosphere Group は、この圏域がどう設計されるべきかを、技術・哲学・社会の三方向から問い続ける研究室です。

私たちが守ろうとしているのは、「あなたの感情の最終的な解釈者は、あなた自身である」というシンプルな原則です。AI がどれだけ感情を測れるようになっても、その意味を最終的に決めるのは本人であり続ける——この原則を、私たちは 感情主権 と呼んでいます。

感情を扱う AI を、人を支配する存在ではなく、人と共に在る存在として実現すること。日本語が世界的に見ても感情表現が豊かな言語であることを活かし、文化を保存しながら拡張する感情 AI を、日本から世界へ提示すること。それが、Affectosphere Group のビジョンです。


updated 2026.05.30