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Column

社員の「次のキャリア」をAIが提案する時代——履歴書の時系列・学歴データから遷移確率を学ぶSTEPの現場応用

職歴・学歴・スキルを時系列で読み込み、「次に就くべき職種」を予測するSTEPというモデルが arXiv に公開されました。社内タレントマネジメントへの応用という観点から、HR部門・経営企画・リスキリング施策の担当者が「自社でどう試せるか」を考えます。

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時系列で並んだ職歴と学歴のカードが軌跡を描き、次のキャリアステップへと矢印でつながっていく図解のフラットイラスト

こんにちは。Affectosphere Group の三浦です。

人材部門の方なら、こういう場面に覚えがあるかもしれません。

「この人、次はどのポジションが向いているだろう」「リスキリング研修を受けた社員を、どの職種に動かせばいいか」「後継者候補を探したいが、誰が一番近いキャリア軌跡を歩んでいるか」——。

そういった判断は長い間、人事担当者の経験と勘に頼るか、1on1面談を重ねて手探りで見極めるかのどちらかだった。仕組み化しようとしても、各社員の職歴・学歴・スキルのデータが非構造でバラバラなので、大規模に分析するのが難しかった。

arXiv に公開された研究(Johary, Bied, Mara & De Bie, arXiv:2607.11722)は、この「キャリアの次の一手を予測する」という問題に正面から挑んでいます。提案されているのは STEP というモデルです。

今日はビジネス応用の視点から、この研究が社内タレントマネジメントにどう活かせるかを考えてみます。


今日の3点

  1. 履歴書は職歴・学歴・スキルの宝庫だが、非構造・不均質・多言語という壁があり大規模分析が困難だった。LLMの登場でその壁が低くなり、時系列・教育シグナルを含むキャリア軌跡データを抽出できるようになった。
  2. STEPは、時間減衰付きGRU(時間ダイナミクス)・FiLM(学歴による条件付け)・注意機構(関連特徴の選択)を組み合わせ、「次の職種」を予測するモデル。職種表現強化のために ROUTE という多言語対応の手法も導入している。
  3. 「学歴で条件付ける」「時間の経過を減衰として扱う」という設計思想は、社内でのキャリアパス提案エンジンやリスキリングROI測定に転用できる芽がある。

① なぜ「次の職種予測」がこれまで難しかったのか

まず、問題の背景を整理します。

人の職歴は、Excelの表のように整然としていません。勤務期間の長さがバラバラ、社名や職種の表記が会社ごとに違う、スキルの書き方も人それぞれ。さらに多言語のデータが混在すると、そのままでは比較も集計もできない。

その結果、「キャリアパスのパターンを大規模に学ぶ」という取り組みは、長らく理論的には面白いが実装が難しいままだった。

この研究の出発点は、LLMの登場によってこの非構造データを解析可能な形に変換できるようになった、という観察です。職歴・学歴・スキルを時系列データとして抽出し、「どの職種からどの職種へ、どんな学歴背景を持つ人が、どのくらいのタイミングで遷移したか」という軌跡データを作れるようになった。

STEP はその軌跡データを学習し、次の職種を予測するモデルとして設計されています。


② STEPの仕組み:時間・学歴・注意機構の三層構造

STEPの構成を、論文の記述に沿って追ってみます。

最初の要素は、時間減衰付きGRUです。

職歴の「時間の流れ」を捉えるために、GRU(ゲート付き回帰ユニット)に時間減衰の仕組みを組み込んでいます。直近の職歴が強く、古い職歴は徐々に薄れる、という直感に沿った設計です。人が「5年前の職歴より3年前の職歴のほうが今の自分を形成している」と感じるのと似ています。

次の要素は、FiLMによる学歴条件付けです。

FiLM(Feature-wise Linear Modulation)という手法を使い、学歴情報でモデルの動作を条件付けています。同じ職歴の流れを持っていても、学士と修士と博士では次のキャリア遷移のパターンが違う。その違いを学習に組み込もうというアイデアです。「学歴投資がキャリアにどう効いたか」を捉えようとしている点が、後で触れるリスキリング応用に関係してきます。

三つ目は、注意機構によるシーケンスプーリングです。

職歴の中でどの経験が「次の職種予測」に最も関係があるかを、注意機構で選択します。全ての職歴を均等に扱うのではなく、関連の高い特徴を重点的に見る設計です。

そして、職種表現を強化するために ROUTE という手法も組み込まれています。多言語エンコーダを使い、教師なしデノイジングで職域に適応させ、さらに対照学習で職種間の関係を学ぶ仕組みです。多言語の履歴書データを扱う場合に効いてきます。

研究チームはこのモデルを4つのデータセットで評価し、既存手法(SOTAベースライン)を上回る結果を報告しています。ただし具体的な精度数値は今回提供された要旨には記載がないので、ここでは数値の引用は控えます。データセットとコードは公開されているとのことです。


③ 現場でどう試すか:部署とKPIの具体案

では、これを自社でどう試すか。私なりの導入シナリオを書きます。

まず想定するユースケースは三つです。

一つ目は、社内キャリアパス提案エンジンです。社員の職歴・学歴・スキルをインプットに、「このまま続けると次はこの職種が適している」「別のルートに進むなら、今のスキルから最も近いのはこちら」という候補を提示する。社内公募制度や異動打診の補助ツールとして機能します。現状の「人事担当者の経験値と面談の積み重ね」という属人的なプロセスに、データの裏付けを付け加えるイメージです。

二つ目は、リスキリング施策のROI測定です。これが STEP の設計から私が特に面白いと感じた応用です。FiLM が「学歴で条件付け」する仕組みは、「特定の研修や資格取得が、その後のキャリア遷移確率をどう動かすか」を測るモデルに転用できる可能性があります。例えば、「データサイエンス研修を受けた営業職社員の3年後のキャリア遷移」をモデルにかけ、「研修なし」の群と比較するシミュレーションができるかもしれない。これは論文が直接示した用途ではなく、あくまで設計思想から派生した私の見立てです。

三つ目は、後継者計画(サクセッションプランニング)への活用です。「このポジションの後継者候補は誰か」という問いを、「そのポジションに現在就いている人たちの過去の職歴軌跡に最も近い社員は誰か」という問いに変換して探索できます。トップダウンで指名するのではなく、軌跡の類似度で候補を浮かび上がらせる発想です。

想定する部署はこうです。

人事・タレントマネジメント部門は、このエンジンのオーナーになる部門です。社員データの整備、推薦結果の解釈、面談への活用方針の設計を担います。HR Tech推進チームや人事システム担当が実装側を担う形が現実的でしょう。

経営企画・人材戦略部門は、後継者計画や要員計画の文脈で活用します。「3年後に必要なスキル構成の人材がいるか」という計画精度を上げる材料として、軌跡予測を使えます。

社内公募・キャリア開発担当は、社員が自分でキャリアシミュレーションをかけられるセルフサービスツールとして展開できます。「自分の今の軌跡だと、どんな職種の候補が出てくるか」を自分で確認できる環境が整えば、キャリア面談の質も上がります。

KPIについては次を提案します。

第一に、社内公募・異動のマッチング精度です。AI推薦した候補者と実際に採用された候補者の一致率。第二に、リスキリング施策後のキャリア遷移率です。研修受講後にモデルが予測した方向への遷移が実際に起きたかどうか。第三に、後継者計画の充足率です。主要ポジションについて、計画対比で候補者が揃っているかの充足度。第四に、社員のキャリア面談満足度です。データの裏付けを持った面談が、定性的にどう受け取られているか。

一点、注意点として加えておきます。社員のキャリアデータを使うシステムは、プライバシーと公平性の設計が重要です。「AIが推薦したから」という理由で異動を強制されることへの不安、特定のバックグラウンドへの偏りが推薦に入り込むリスク——これらは論文が扱っている問題ではなく、実装側が別途設計しなければいけない問題です。ツールを「意思決定の代替」ではなく「意思決定の補助」として位置づけることが、現場受け入れの前提条件になると思います。


「次の一手」を可視化することの価値

今回の研究を読んで感じたのは、キャリアの問題は「非構造データの問題」だったのだ、ということです。

個人のキャリアは物語として語られるものですが、企業の人材管理の観点からは、「どこからどこへ、どんな条件を持つ人が動いたか」という遷移のデータです。そのデータをLLMで整備し、深層学習で学習できるようになった今、「次の職種を予測する」は不可能な問いではなくなってきた。

もちろん、モデルが出した予測がすべて正しいわけではありません。個人のキャリアは偶然や意思決定の積み重ねでもある。でも「この軌跡から統計的に多い次のステップはこれ」という一つの参照点が加わることで、面談の質が変わり、施策の検証が変わる。

人事の直感と、データが示す傾向を組み合わせる環境が整いつつある。STEPはその一歩を示した研究だと感じました。

では!


参考論文

  1. Johary, Iman, Bied, Guillaume, Mara, Alexandru C., & De Bie, Tijl (2026). STEP: Career-Path Recommendation via Temporal and Educational Trajectory Modeling. arXiv preprint. https://arxiv.org/abs/2607.11722

※ 本記事は一部 AI により執筆されており、間違った情報が含まれる恐れがあります。