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Column

医薬品の「廃棄ロス」と「欠品」を同時に減らすAIが登場した

賞味期限と需要の不確実性という二重制約を持つ医薬品在庫管理に、強化学習が本格的に入ってきた。A3C DPPOハイブリッドが示した実装のヒントと、病院薬局・医薬品卸が今考えるべきROI。

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医薬品の補充サイクルとAIの判断を抽象的に表現したフラットイラスト

こんにちは。Affectosphere Group の井下です。

医薬品の在庫管理には、一般的な小売業にはない二重の難しさがあります。

一方では、使い切れなかった薬の廃棄コスト。特殊医薬品や生物学的製剤は 1 バイアルで数万円から数十万円になることもあります。期限切れで捨てるしかないとなると、損失は無視できません。

もう一方では、欠品による患者への影響。在庫を絞りすぎて「必要な薬が手元にない」となれば、それは直接的な医療リスクになります。

この二つを同時に最適化する、というのが医薬品在庫管理の核心課題です。

2026 年 6 月に arXiv に公開された研究(Amandeep Kaur, Gyan Prakash、arXiv:2606.06201)は、この問題を強化学習(RL)で解くアプローチを提案しています。


今日の 3 点

  1. 医薬品在庫管理をマルコフ決定過程として定式化し、A3C と DPPO を組み合わせたハイブリッド深層 RL で最適補充ポリシーを学習できることを示した。
  2. 実際の医薬品データを使った検証で、競合手法より在庫コストを削減しながら患者サービスレベルを維持した。
  3. 特に高価格・短賞味期限の特殊医薬品管理において、RL ベースのアプローチが顕著な ROI をもたらす可能性がある。

① 医薬品在庫の「難しさ」をどう定式化したか

この研究のまず面白いところは、問題の定式化にあります。

在庫管理の問題を「マルコフ決定過程(MDP)」として組み立てています。ざっくりいえば「今の在庫状況を状態として観測し、補充量という行動を選んで、廃棄ロスと欠品コストという報酬シグナルに従って学習する」という枠組みです。

これ自体は既存研究でも使われてきましたが、この研究が加えた工夫は「期限切れ廃棄のペナルティ」と「需要の季節変動・突発変動」を同時にモデルの中に組み込んでいる点です。

薬ごとに賞味期限が違い、需要は季節や流行状況によって大きく変わる。そういった現実の複雑さをモデルに反映させた上で、A3C(非同期アドバンテージ Actor-Critic)と DPPO(分散 PPO)を組み合わせたハイブリッドアルゴリズムで学習させています。

なぜ二つのアルゴリズムを組み合わせるのか。A3C は探索効率が高く多様な状態への適応が得意で、DPPO は安定した収束に強い。それぞれの長所を活かして、在庫管理のような複雑な最適化に対応しています。


② 実際の医薬品データでどれくらい効いたか

この研究で重要なのは、実際の医薬品データを使って検証した点です。

結果として、競合手法(従来の在庫最適化アルゴリズム)と比較して在庫コストを削減しながら、患者サービスレベル(必要な薬が必要なときに手元にある確率)は維持できることが確認されました。

具体的な数値は論文で確認していただくとして、重要なポイントは「廃棄削減」と「欠品防止」のトレードオフを崩さずに両立できた、という点です。

通常、廃棄を減らそうとすると在庫を絞ることになり欠品リスクが上がります。逆に欠品を防ごうとすると在庫を多めに持つことになり廃棄が増えます。この二律背反をどう破るか、が在庫最適化の本質的な課題です。

RL モデルは需要パターンを継続的に学習するため、季節変動や突発需要に対して在庫量を動的に調整できます。固定ルールベースの補充モデルでは対応しきれない「状況依存の判断」が可能になる、というのが RL のアドバンテージです。


③ 病院薬局・医薬品卸が今考えるべき ROI

この研究の知見を現場に落とすとき、最も投資対効果が出やすいのはどこか考えてみました。

候補は主に 3 つあります。

一つ目が「高価格・短賞味期限の特殊医薬品」です。生物学的製剤・抗がん剤・希少疾患治療薬などが典型です。1 件の廃棄損失が大きく、かつ需要予測が難しい。ここに RL エンジンを導入すると、ROI が出やすいです。

二つ目が「季節性インフルエンザ薬や抗アレルギー薬など、季節変動が大きい品目」です。固定モデルでは対応しきれない需要の波を、学習ベースのモデルで吸収できます。

三つ目が「調剤薬局チェーンや病院グループ全体の在庫ネットワーク最適化」です。複数拠点間での在庫の融通・移転判断にもこのアプローチは応用できます。

実装の現実解としては、既存の薬局 HIS(医療情報システム)や WMS(倉庫管理システム)に RL ベースの補充推奨エンジンを API として追加し、最終発注判断は薬剤師が行う「AI 補助型」モデルが最初のステップとして妥当だと思います。

KPI は「期限切れ廃棄金額(月次)」「欠品発生率」「在庫回転率」の 3 つを並走させるのが標準的な設計になるでしょう。


在庫の「動的最適化」時代へ

医薬品在庫管理は長年、「安全在庫」という概念で管理されてきました。不確実性に対するバッファを固定値として設定し、その水準以下になったら発注する、というシンプルなルールです。

RL ベースのアプローチは、そのパラダイムを変えようとしています。バッファを固定値ではなく、現在の需要パターン・在庫状況・賞味期限分布に応じて動的に調整する「学習型の補充」です。

この研究は方法論的には強化学習の医療応用という位置づけですが、実務的には「廃棄と欠品の両立」という現場の痛点に正面から応えようとしています。

病院薬局長や医薬品卸の在庫担当の方には、参照価値のある研究だと思います。

では!


参考論文

  1. Amandeep Kaur, Gyan Prakash (2026). Learning to replenish: A hybrid deep RL for dynamic inventory management in pharmaceutical supply chains. arXiv preprint.

※ 本記事は一部 AI により執筆されており、間違った情報が含まれる恐れがあります。