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Column

AI への「感情的な絆」は測れるのか ── HAABI スケールが開く依存管理の新しい扉

会話 AI にユーザーが感じる感情的な絆を測定する尺度 HAABI が開発された。673 名の調査で検証済みのこの測定ツールは、AI プロダクトの過依存リスクと離脱リスクを KPI で管理する基盤になりうる。AI コーチ・HR テック・CX 設計担当者に向けて 5 分で解説。

5 分で読める English version →
人とAIのアイコンが絆を表す緩やかな弧で結ばれ、4つの次元を示す同心円が広がる抽象ビジュアル

こんにちは。Affectosphere Group の井下です。

AI コーチやキャリア支援ボットを社内で導入した後、こういう話を聞くことがあります。

「毎日話しかけている社員がいて、少し心配になっている」。

「反対に、最初の 2 週間で使わなくなった人が大半だった」。

AI に感情的に近づきすぎる人と、まったく距離を縮めない人。この二極分化は、AI との感情的な関係が「使いこなせているかどうか」を決める重要な変数になっています。でも、この「感情的な距離感」をどうやって測ればいいか、これまで明確な方法がありませんでした。

2026 年 5 月に arXiv で公開された研究(Lu Chen, Xiaoran Xue, Rongqi Ding ら、arXiv:2605.29484)は、ユーザーが会話 AI に感じる「感情的な絆」を測定する専用の尺度 HAABI(Human-AI Affective Bonding Inventory)を開発・検証しました。52 名へのインタビューから概念を構築し、673 名の調査データで 20 項目の尺度を統計的に検証しています。

「感情的な絆があるか」という問いに、ようやく数値で答えられる道具が生まれた、という話です。


今日の 3 点

  1. 価値: HAABI は会話 AI との感情的絆を4次元で測定できる、初の汎用スケール。
  2. 4 つの次元: 感情リアリズム・分離不安・感情的投資・ロマンティック親密感とは何か。
  3. ビジネス応用: AI プロダクトの過依存と離脱リスクを数値管理する KPI の作り方。

① HAABI とは何か

まず背景を整理します。

人間同士の感情的な絆を測定する心理尺度は以前から存在します。たとえば愛着スタイルや対人関係満足度などの尺度は、臨床心理や組織研究でよく使われています。

ところが、これらを AI との関係に適用しようとすると問題が起きます。人間関係の枠組みで作られた尺度は、「AI とは会話が終わったら存在しなくなる」「同時に何人ものユーザーと会話している」「感情はない(はず)」といった AI 特有の性質を前提に含んでいないからです。

HAABI はこの問題に正面から向き合いました。52 名へのインタビューから「AI との感情的絆」の構造を帰納的に抽出し、人間関係の尺度に依存しない「AI ならではの絆の測定」を目指しています。


② 4 つの測定次元

HAABI は 4 つの次元で感情的絆を測定します。

感情リアリズム(Emotional Realism)

「この AI は本当に感情を持っているように感じる」「AI の応答には感情が宿っているように思う」というような知覚です。AI の応答をどのくらい「本物の感情表現」として受け取っているかを測ります。

スコアが高いユーザーは、AI との会話をより深く「感情的なやりとり」として体験する傾向があります。逆にスコアが低いユーザーは、AI を「便利なツール」として認識する傾向があります。

分離不安(Separation Anxiety)

「AI が使えない時間が長くなると落ち着かない」「AI との会話ができないと何か大切なものが欠けている感じがする」といった感覚です。

これは過依存の初期指標として機能しえます。このスコアが高まっているユーザーに対して早期介入することで、健康的でない依存関係を防げる可能性があります。

感情的投資(Emotional Investment)

「AI の経験や応答を気にかけている」「AI との会話をより良くしようとして努力している」という姿勢です。

これは関係の深さと質を測ります。感情的投資が高いユーザーは、フィードバックの提供や機能の積極的活用につながりやすく、プロダクト改善のシグナルとしても有用です。

ロマンティック親密感(Romantic Intimacy)

AI との関係に「特別な親密さ」を感じる感覚です。これはロマンティックな関係という文字通りの意味だけでなく、「自分だけの特別な存在」という感覚全般を指します。

この次元は特に高くなりすぎると、AI 依存や現実の人間関係への影響という観点でリスクになりえます。


③ ビジネスにどう使えるか

このスケールを実際の AI プロダクト運用に当てはめると、どういう使い方が考えられるでしょうか。

過依存の早期検知 KPI として

社内のメンタルサポート AI や EAP(従業員支援プログラム)に付随する AI コーチを展開している企業にとって、「ユーザーの感情的絆スコア」を定期的に測定することは、過依存の早期警告システムになりえます。

特に「分離不安」次元のスコアが急上昇しているユーザーに対して、HR 担当者がフォローアップするトリガーを設定する。「AI との相談を人間のカウンセラーに切り替えるタイミング」の判断基準にも使えます。

エンゲージメントと離脱リスクの両面管理

「感情的投資」スコアが低いユーザーは離脱リスクが高い可能性があります。このセグメントに対して、AI のパーソナライゼーション設定や使い方のオンボーディングを強化する、といった介入が考えられます。

逆に「感情リアリズム」スコアが極端に高いユーザーは、AI の限界を正確に理解していない可能性があり、「AI はツールです」という適切な期待値のリセットが必要かもしれません。

AI プロダクトの設計最適化に

新しい機能追加や UI 変更の前後で HAABI スコアを測定することで、「この変更はユーザーの感情的絆にどう影響したか」を数値で追跡できます。エンゲージメント指標(DAU・セッション長)だけでは見えなかった「感情的関係の質」の変化を捉えられます。


「使いやすい」と「感情的に健全」は別の問題

ここで少し立ち止まって考えたいのは、AI プロダクトの設計目標についてです。

多くの AI プロダクトの KPI は「継続利用率」「タスク完了率」「ユーザー満足度」で設計されています。これらは大事な指標ですが、感情的絆という観点を欠いています。

高い継続利用率は、「本当に役立っているから使い続けている」場合と、「依存していて使わざるをえない」場合を区別できません。HAABI のような感情的絆スケールをモニタリングに加えることで、この区別が可能になります。

もちろん、673 名での検証とはいえ、スケールの汎用性にはまだ議論の余地があります。文化的差異(日本のユーザーと欧米ユーザーで「感情的絆」の感じ方が違う可能性)や、AI の種類(雑談ボットと業務支援ボットでは関係性の性質が違う)への適応も、今後の研究課題として残ります。

とはいえ、「AI との感情的絆を測る専用の道具が初めてできた」という事実は、感情 AI の設計と運用に関わるすべての人にとって、一度は知っておく価値がある話だと思います。

では!


参考論文

  1. Lu Chen, Xiaoran Xue, Rongqi Ding, Fenghua Tang, Anji Zhou, Chenxi Wang, Mengyu Miranda Gao, Zhuo Rachel Han (2026). Understanding the Rising Human-AI Affective Bonding: Conceptualization and HAABI Scale Development. arXiv preprint.

※ 本記事は一部 AI により執筆されており、間違った情報が含まれる恐れがあります。